コラム

2022.08.19

マゼランペンギンについてもっと知りたい!~データロガーを用いた行動調査について~

  • 調査・研究

水族館は、多彩ないきものが暮らす姿を間近に感じていただける場所です。すみだ水族館は、いきものたちを通して、来館するみなさまにワクワクする気持ちや、ほっとする気持ち、いのちの大切さを思うきっかけを与えるだけでなく、さまざまな調査や研究も行っています。

このコラムでは、すみだ水族館の調査研究の一つをご紹介します。

マゼランペンギンたちの暮らしをより健康的に、豊かに


すみだ水族館は2012年開業時よりマゼランペンギンを飼育しています。10年連続で繁殖にも成功し、たくさんのペンギンたちが誕生しています。他の水族館へ引っ越しをした仲間もいましたが、2022年8月現在で52羽と大所帯。彼らの関係性を一目で分かる図にした“ペンギン相関図”もきっかけとなり、ペンギンたちの個性や社会性など、たくさんの魅力や生態を紹介するきっかけを皆さまへ提供しつづけています。‌

2017年には5羽の赤ちゃんが誕生



開業からいる夫婦 なでしこ・ライム

開業からいる夫婦 なでしこ・ライム



一方で、言葉を介してのコミュニケーションが取れないペンギンたちが“ここは暮らしやすいよ”と感じてくれているかどうかは、10年の間繁殖が途切れることなく、親ペンギンたちも健康であり続けていることに表れていると考えています。これは、最も近くで接している飼育スタッフが小さな変化を発見し、改善し続けてきた結果です。ですが、ペンギンたちが今の暮らしをどう思っているのか、何か不満は無いのか、身体に影響しているものは無いかなど、さらに生活の質を上げていくためには、彼らからもっとたくさんのメッセージを集めなくてはなりません。‌

例えば、“夜間の過ごし方や、季節、雌雄やカップルの違いなどでどのような行動変化があるのか”、24時間365日ずっと見続けて、その行動が良いか悪いかを考察していくことなどです。しかし私たちの観察する目も個人差があり、間断なく正確に考察するのは不可能です。‌

そこで、人の目だけでは難しいペンギンたちの行動をより正確に記録し、健康的で、豊かな暮らしを実現するための基礎調査として、私たちは野生のマゼランペンギンが暮らすアルゼンチンで行動調査を続けている麻布大学の山本先生と「データロガー」と呼ばれる記録装置を用いて、ペンギンたちの行動記録を開始することにしました。‌

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水族館での暮らしの調査が野生生物保全にもつながる?‌
山本先生のコメント


皆さんは「バイオロギング」という言葉を聞いたことがありますか?動物たちのことを知るためには、彼らの行動を注意深く観察する必要があります。しかし、私たちが観察できる時間や個体数には限界があります。そこで、「データロガー」と呼ばれる小さな機械を動物に取り付けることで、彼らの行動を調べる方法が「バイオロギング」です。例えば、スマートウオッチをイメージしていただくと良いかもしれません。私たちも健康管理のため、毎日の歩行回数や消費カロリーを記録して、生活習慣を改善する手がかりにします。同じように、データロガーでペンギンたちの行動を記録して解析することで、彼らの健康管理や病気などの早期発見につながることが期待されます。また、ペンギンたちの1日の行動パターンなど、彼らについて知りたいことがたくさんあります。そんなペンギンたちの生き方やそれぞれの個性も知ることができます。さらに、野生個体の行動と比較することで、自然環境での行動に近い飼育環境を検討する手がかりにもなります。‌

一方、飼育されているペンギンたちの行動を知ることで、野外のペンギンたちの研究にも貢献することができます。例えば、行動の個体差や雌雄および年齢による差、繁殖期と非繁殖期の行動の違いなど、マゼランペンギンの行動の特徴を理解することで、温暖化などによる影響を予測することができるかもしれません。すみだ水族館のペンギンたちの行動を調べることで、彼らにとってより良い生活をしてもらうことのみならず、野生のペンギンたちの保全にも還元できればうれしいです。‌

山本誉士(麻布大学 獣医学部 動物応用科学科 准教授)‌
データロガーを用いて、日本国内のみならず、世界各国で鳥類や哺乳類の生態を研究。環境と関連した動物たちの生き方(適応)に興味を持ち、環境変動や温暖化、人為活動との関連について調べている。専門は動物行動生態学。近年はアルゼンチンにあるマゼランペンギンの繁殖地にて調査を実施。また、国内の水族館や動物園の飼育動物にデータロガーを装着し、行動モニタリングや環境エンリッチメントに関する研究にも取り組んでいる。



アルゼンチンにあるマゼランペンギンの繁殖地(San Lorenzo)での調査の様子(山本先生)

アルゼンチンにあるマゼランペンギンの繁殖地(San Lorenzo)での調査の様子(山本先生)

データロガーの装着について


下記写真のように、ペンギンのフリッパー(翼)のバンドに機器(データロガー)を取り付け、1年間調査を行います。データロガーを用いた行動研究は野生のペンギンたちでは数多くおこなわれており、近年は海外の動物園や水族館でも実施されています。すみだ水族館における事前テストでも、ペンギンたちに影響がないことが確認できていますので、ご安心ください。‌

まだまだ解明されていないいきものの生態を研究することや調査に協力することも、水族館の大切な役割の一つです。すみだ水族館では、動物福祉に配慮し、より良い暮らしの実現に努めるとともに、野生生物の保全や環境配慮へも還元できるような協力や取り組みを続けていきたいと考えています。‌



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