「メダカの学校プロジェクト」のはじまり
2021年11月、墨田区からすみだ水族館に「取り壊し予定の旧立花中学校の敷地内にいるメダカを保護してもらえないか」という相談がありました。きっかけは同校の卒業生からの情報提供とのことでした。
飼育スタッフが現場を確認すると、水草が茂る池の中を確かに野生のミナミメダカに見える魚が泳いでいました。
池のメダカたちを保護して水族館で飼育しつつ、このメダカたちがいつどこからやってきたメダカたちなのかを墨田区に調査してもらいました。その結果、学校関係者への聞き取りから2011年に当時の学校の主事さんが池のボウフラ対策として旧中川で採集したミナミメダカの子孫だということがわかりました。
野生のメダカの寿命が十数か月であることを考えると、メダカたちが身近な場所で10年にわたっていのちをつないできたことがどれだけ貴重なことなのか想像できると思います。
池の保護の様子
導入経緯から、貴重な東京在来特有の遺伝子を持つメダカの可能性がありました。一方でミナミメダカは全国の河川で遺伝的かく乱が進んでいて、見つかったメダカたちが「昔から東京に存在する遺伝子(東日本型)のみを持つメダカ」なのか「他の地域の遺伝子が混ざったミナミメダカ」または「観賞品種のヒメダカと交雑したミナミメダカ」なのかは実際に遺伝子を調べてみないとわかりません。
そこで遺伝子検査をしたところ、東京にはない地域由来の遺伝子が確認され、また品種改良のヒメダカ(ミナミメダカの改良品種)と交雑を経たミナミメダカであることが判明しました。そのため、自然環境に流出してしまうと遺伝的かく乱を起こす原因になってしまうので、採集地の旧中川に再放流したりすることはできないと判断することになりました。
保護したメダカ
大切ないのちをみんなでつなごう
保護したメダカたちは、種の保存の観点からみると一見価値のないメダカと考えられます。しかし、メダカの寿命は野生下で約1年にもかかわらず、保護したメダカたちは約10年間、いのちをつなぎ続けていました。
そこで、たくましく“いのち”をつないできたメダカたちを地域のみなさまに愛し、大切にしてほしいという想いから、再び子どもたちと一緒に学校で暮らせるように新設された校舎の池に戻すため、2022年7月、「メダカの学校プロジェクト」が立ち上がりました。
プロジェクトの始動日には、これから一緒にメダカと暮らす子どもたちに、これまでの経緯やメダカの生態について授業を行いました。授業では、メダカが絶滅危惧種になっていることに対する驚きの声が聞かれました。
授業のようす
新しい校舎にメダカを迎えるにあたって、中学校では「メダカ飼育部」が設立されました。
夏休みの期間には、生徒のみなさまを水族館に招待して、メダカを間近で観察していただくとともに、いきもののいのちを預かるうえで大切にしてほしいことを伝えました。
保護メダカを観察する中学校の生徒たち
メダカは、中学校の池と校内の水槽、隣接する小学校内の水槽で育てられることが決まり、先生方にも水槽設置のご協力をいただくなど、各所で準備が進められました。
構内の水槽を準備する先生たちと水族館スタッフ
中学校の池の外壁は、アート部が地域やメダカをイメージしたタイルアートを施しました。
タイルアートが施された中学校の池
保護したメダカを放流
2022年9月10日、保護したメダカを学校に放流する日がやってきました。
放流会には、学校の子どもたち、先生方のほか、墨田区長、きっかけとなった卒業生、保護者のみなさまをはじめとする多くの方が集まりました。放流前には体育館に集まり、これまでの経緯みなさまと振り返るとともに、すみだ水族館からはメダカの飼育方法の授業を行いました。
放流会前の授業のようす
そして、秋晴れのなか、無事にメダカたちは子どもたちによって新しい池に放流されました。
放流するようす
今回のプロジェクトは、取り壊す池のメダカたちを気にかけてくれた中学校の卒業生の想いがきっかけとなり、たくさんの子どもたちと地域の方々が、いきもののいのちや環境について考える機会になりました。これからも、保護したメダカを通して、子どもたちがいきものを大切する優しい気持ちを持ち続けてほしいと願っています。
子どもたちによって、メダカは「泳ぐ宝石 メダカのあずちゃん」と愛称がつけられました。新しい環境でも赤ちゃんが次々と誕生し、今も大切に育てられています。
中学校の池で暮らす「泳ぐ宝石 メダカのあずちゃん」※2022年12月撮影
小学校の水槽で暮らす「泳ぐ宝石 メダカのあずちゃん」※2022年12月撮影