1.きっかけ
自分で作った巣穴から、体をだしてゆらゆらしているチンアナゴたち。
よく、「ずっと同じ巣穴にいるの?」と聞かれますが、全身を出してお引越しをすることがあります。
「お引越しは全身出たあと、尻尾で穴を掘るんですよ、掘った穴は粘液でかためて崩れないようにします!」なんてことをお話ししていると、お客様からこんな質問が・・・
「チンアナゴはなぜお引越しするの?何回引っ越しするの?」
「・・・・んーなぜでしょう?何回でしょうか?」
私はこの質問に答えられませんでした。そのあと調べてみると、論文でお引越しの調査記録はほとんどありませんでした。
そこで、まだほとんど知られていないお引越しの謎について、すみだ水族館のチンアナゴたちを観察して調べてみることにしました。
お引越ししているチンアナゴ
2.無数にいるチンアナゴの中から個性をさがせ!
お引越しを調べるにも、この水槽には約150匹ものチンアナゴが暮らしています。
この無数にいるチンアナゴの中から、観察する個体を決めるにはどうしたらいいのか?実は「体にある大きな黒い模様は5つ」という特徴があります。
その5つの模様を1匹ずつ注目してみると気づくことはありませんか?
そう!模様が1匹ずつ違います。
さらに、体の色も微妙に違ってそれぞれに個性があるのです!
なかでも、私は個性的なチンアナゴたち6匹を選び、あだ名をつけて観察を始めました。
3.期間・方法など
調査した期間は2021年6月15日から2022年9月18日までの計431日間、そのうち204回の記録を行いました。(4月は除く)
これはチンアナゴたちが暮らす水槽を上から見た図です。
ゴハンの後6匹のチンアナゴがどこにいるか記録しました。
また、お引越しした際に移動したマスは最短距離で計測しました。
記録表を集計すると、お引っ越し期間・回数・距離(マス数)などがわかってきました。
4.結果
チンアナゴは1ヶ月以上同じところにいることもあれば、1日で引っ越すこともあり、引っ越し回数の実績も最大で30回も違うという結果となりました。また今回の観察個体からは、体格差が引っ越し回数を決めるものでも無いという事もわかりました。
5.考察・今後の展望
お引越しを調査した結果から、それぞれの項目について考察しました。
①体格による回数と距離について
体格で引っ越しの回数や距離は決まらず、引っ越しの理由は別にあることが考えられました。
②お引越しまでの日数について
チンアナゴは1ヶ月以上同じところにいることもあれば、1日で引っ越すこともあることから、巣穴をつくった“その場所”に関わる何らかの理由があることが考えられました。
①、②ともに、闘争・繁殖(雌雄)・密度・環境(密度・水流・光・人)などが、“引っ越すこと”・“引っ越す距離”に影響している可能性が考えられました。
しかしながら、今回の観察・調査ではこれらの関連性を示すことはできませんでした。
お客様の素朴な疑問の声から始まった今回の調査ですが、「お引越しの回数・距離」がわかったことで、次なるテーマも見つかりましたので、今後も謎多きチンアナゴの生態に迫っていきます!
6.まとめ 「これは、すみだ水族館のチンアナゴの話」
これはあくまで、すみだ水族館のチンアナゴの話。自然の中では違うかもしれません。
しかし、これをきっかけに1匹1匹のチンアナゴに注目してもらえれば嬉しいです。
模様や色はもちろん、お引越しなどの行動にもそれぞれに個性があります。
例えば、いっぱい引っ越す「なっしん」や長い距離移動する「かぶきち」などなど。
個性豊かなチンアナゴたちをじっくり観察してみてください!
番外編 観察中こんな苦労や発見がありました・・・
①ゴハンの時間とその後 10 分が観察のチャンス!
しかし、ここを逃すと、特徴的な模様が見つけられないことも・・・
②ほかにもよくみると・・・こんな模様の チンアナゴが!
左側からハート柄、星柄、8の字柄の個体
最後までお読みいただきありがとうございました!
ぜひすみだ水族館のチンアナゴに会いにきてくださいね。