コラム

2024.11.06

2024年 世界自然遺産小笠原諸島に関する活動レポート

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すみだ水族館は2012年の開業より小笠原村と連携し、東京にある世界自然遺産を発信する活動を続けています。2023年9月には、新たに情報発信基地「オガサワラベース」を設置し、小笠原大水槽とひとつながりの「小笠原」エリアとして刷新。活動の再スタートを切りました。
水族館は、海や自然、いきものにまつわる情報を伝える役割を担っています。小笠原諸島の美しい自然を伝え、未来につなげていくためには、現地と連携をはかりながら、いきものとそれを取り巻く環境、世界自然遺産と共存していく地域の産業や観光、環境課題について、都会の「いつでも行ける小笠原」から総合的に発信していきたいと考えています。
2024年は本エリアを活用して、様々な活動を実施してきました。

(1)すみだボニンアイランド開催

小笠原諸島の日本返還記念(1968年6月)や世界自然遺産登録記念(2011年6月)など、小笠原にとって「6月」は特別な月です。そんな節目となるタイミングで、「オガサワラベース」公開後初となる、すみだ水族館主催・小笠原村後援のイベントを開催しました。小笠原諸島はかつて無人島(ブニンジマ)、英語圏ではボニン・アイランド(Bonin Island)と呼ばれており、「すみだボニンアイランド」のイベント名は、小笠原の名称になぞらえました。2024年6月から7月にかけて開催した本イベントでは、父島に行ったことのある人にはお馴染みの風景を水族館内に再現。小笠原諸島で身近な樹木の展示なども行い、普段よりも「小笠原」の雰囲気を味わうことのできる空間となりました。‌


会期中の館内のようす


オガサワラベースの樹木の展示

空間演出だけでなく「五感で感じる小笠原」をコンセプトに、小笠原村から直送して頂いた触れる木の実の展示や、旬なパッションフルーツの香り体験、南国を想起させるアイランドチーズドックの販売、認定NPO法人エバーラスティング・ネイチャー※のスタッフによる現地のアオウミガメについての講演、小笠原古謡の音楽公演なども実施しました。‌


触れる木の実の展示


旬なパッションフルーツの香り体験


南国を想起させるアイランドチーズドック


認定NPO法人エバーラスティング・ネイチャー※の
スタッフによる現地のアオウミガメについての講演


小笠原古謡の音楽公演

※すみだ水族館は小笠原村が所有する小笠原海洋センターを運営する認定NPO法人エバーラスティング・ネイチャーが主催する、ウミガメジョイントブリーディングプログラムに参加しています。‌

(2)アオウミガメの保全活動

小笠原諸島は、絶滅危惧種に認定されているアオウミガメの国内最大の産卵地です。すみだ水族館ではこれまで、父島・母島より40頭のアオウミガメの赤ちゃんをお預かりして、外敵に襲われにくい大きさになるまで約1年間育て、飼育スタッフの手で故郷の海へ還してきました。‌
すみだ水族館では赤ちゃんを育てるだけでなく、アオウミガメの生態調査にも協力しています。お預かりしたアオウミガメの赤ちゃんには、リビングタグ(生体標識)を付けています。これは小笠原でどの年代に生まれたかを示す大切な標識です。‌


背中の甲羅の白い斑点がリビングタグ

1、アオウミガメの赤ちゃん「ボニン」と「ブルー」、‌
すくすく育ってふるさと小笠原の海へ!


2023年にお預かりした「ボニン」と「ブルー」の2頭は、それぞれ甲長7.7cmから21.3cm(ボニン)、8.2cmから21.5cm(ブルー)に成長しました。‌
海へ還るまでは、無事に故郷の海に還すことができるという安堵の想いと、これからこの大きな海で暮らしていくのだなというさみしさと嬉しさが入り混じった気持ちになります。‌
しかし、そんな気持ちとは裏腹に、「ボニン」と「ブルー」は砂浜から一目散に海へと向かい泳ぎだしました。水中では両前肢を力強く動かし、時折水面から顔を出して息継ぎをしながらどんどん前に進んでいきます。スタッフが後ろからしばらく一緒に泳いで観察しましたが、追いかけるのがやっとなくらい上手に泳いでいきました。‌
2頭が無事に海に還った後、深く濃い青色「ボニンブルー」の海を眺めホッとしたのを覚えています。それと同時に張り詰めていた気持ちが緩み、どっと疲労感に襲われたのはここだけの話です。‌


アオウミガメの「ボニン」を小笠原の海に還す飼育スタッフ


アオウミガメが還った小笠原の海


海へ還るアオウミガメの「ブルー」

2、ようこそ「ハート」と「ロック」!


そして、2024年生まれの赤ちゃんが「オガサワラベース」に新たに仲間入りしました。赤ちゃんの名前は毎年、「伝えたい小笠原の魅力」というテーマで、小笠原村立小笠原小学校5年生のみなさんが考えてくださっています。今年は話し合いの結果、小笠原諸島の千尋岩(愛称:ハートロック)を由来とした「ハート」と「ロック」という素敵な名前を付けていただきました。‌
「ハート」と「ロック」は2024年8月5日生まれです。すみだ水族館へ来たときは、それぞれ甲長7.2㎝、7.3㎝でした。‌
2頭とも、すぐにすみだ水族館の環境に慣れ、ゴハンも食べてくれました。‌
「ハート」はのんびりとした性格なのか、ゴハンの時間もゆっくりと近付いてくる一方で、「ロック」は気付くと待ちきれずにものすごい勢いで寄ってきます。この2頭をお預かりして無事に故郷の海へと還すまで、どのような様子を見ることができるのか、元気に成長してくれるのか。また新たな1年のスタートです。‌


アオウミガメの「ハート」と「ロック」


小笠原小学校のみなさんが書いてくださった命名ボード


名前の由来となった千尋岩(愛称:ハートロック)

小笠原小学校との交流


小笠原小学校のみなさんにはアオウミガメの名前を付けていただくだけでなく、赤ちゃんが海へ還る様子を一緒に見守っていただいたり、お預かりしたアオウミガメのことについてお伝えする特別授業を行ったりなど、年間を通して交流を行っています。‌
令和5年度に小笠原小学校5年生だったみなさんには「ボニン」と「ブルー」という素敵な名前を付けていただきましたが、2頭の名前を通じて「小笠原のどこまでも透きとおる深く青い海の色、ボニンブルー」について、多くの方に知っていただくことができました。また、交流のお礼に、海浜清掃活動で回収したプラスチックをアップサイクルしたプレートも寄贈しています。今年度のプレートには、「ボニン」と「ブルー」の誕生日や海へ還った日を記しました。小学校を卒業した後でもプレートを見返すことで、水族館で共にふるさとの自然を伝えたことを思い出すとともに、その自然を大切にする心をいつまでも忘れずにいてほしいと願っています。‌


令和6年度のプレート


プレートを寄贈するようす


お披露目会で「ハート」と「ロック」が水槽にはじめて入るようす

初渡航のスタッフコラム


現地で体験する自然は壮大で美しく、改めて「世界自然遺産の島」に魅了されました。山へも海へも赴きましたが、本当に身近な場所に、この島にしかない自然があることを肌で感じてきました。「ボニン」と「ブルー」の名前の由来にもなった「ボニンブルー」の海の色は、想像の何倍も綺麗で美しかったです。今回は父島に加えて母島へも訪れました。母島は人口が父島の約5分の1で、島民同士のつながりが深い島でもあります。現地では南崎や乳房山を視察して、雄大な自然や独自の生態系に触れることができました。‌
今回はメインの活動でもあるアオウミガメの赤ちゃんを海へ還し、新しい赤ちゃんをお預かりすることに加えて、少しだけ清掃活動も行ってきました。当館では今年4月に父島でビーチクリーンを実施していますが(コラム:今年もアオウミガメの産卵地を清掃!「小笠原諸島ビーチクリーン」)、今回の渡航期間中は海浜清掃のイベントが実施されており、すみだ水族館も少しだけお力添えをさせていただきました。眼下に広がる美しい自然の中に映る漂着ゴミを目の当たりにして、誰かが困っている現実があり、環境共生の大切さについて改めて考えさせられました。今後ますます、美しい自然やいきものなどの魅力を紹介するとともに、環境に対する課題解決など私たちにできる取組を続け、発信していきたいと思う旅となりました。今回お迎えした「ハート」と「ロック」を通じて、このような想いで取組を続けていきたいと思います。‌


母島で参加したビーチクリーン


母島の壮大な自然


母島の綺麗な海



小笠原エリアについて

すみだ水族館は、2011年に小笠原諸島が世界自然遺産に登録されたことを受け、「東京スカイツリー®という日本が誇るランドマークの下で世界に誇れる自然を紹介したい」という考えのもと、翌2012年の開業時より小笠原村と連携を続けています。‌
館内のシンボルでもある「小笠原大水槽」は、現地のダイバーや関係者の方々のご協力のもと、「ボニンブルー」と呼ばれる「どこまでも透きとおる深く青い海の色」や水中の岩礁など、小笠原諸島の海中風景を再現しています。この水槽では、小笠原を代表するいきものであるシロワニや、周辺海域によく出現する黄化したミナミイスズミやヨスジフエダイの群れなど、約45種450匹のいきものが暮らしています。‌


小笠原大水槽


オガサワラベース

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