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2024.12.24
すみだ水族館のクラゲ展示について
すみだ水族館では2012年の開業時からクラゲの飼育に取り組んできました。クラゲ飼育は本当に挑戦の連続で、開業時はそもそも人工海水で大規模にクラゲの飼育が出来るのか大きな挑戦でした。しかし、1年2年とクラゲを飼育し、様々なことに挑戦をしていくうちにクラゲの気持ちが少しはわかるようになりました。今回は当館のクラゲ展示と繁殖について紹介します。(展示飼育チーム 百崎 孝男)
■すみだ水族館のクラゲ展示
当館では飼育ポリシーとして「私たちのやくそく」を掲げています。クラゲの展示飼育にも、そのポリシーの想いを乗せ、館内で育てたクラゲだけを展示することを目標にしています。これは、2020年から始まった挑戦で、現在まで館内育ちのクラゲだけを展示することに成功しています。
この挑戦の中核は館内にある「ラボ」です。実は当館にはクラゲを飼育するためのバックヤードがありません。クラゲ育成の全てをラボに集約しています。なので、ラボでの飼育作業を見ていれば、皆さんもクラゲが飼育できるようになるかもしれませんね。
ラボ
このラボではクラゲの繁殖と育成を行っていますが、皆さんはクラゲの繁殖といわれても、イメージが湧かないかもしれませんね。クラゲは一生のうち有性生殖と無性生殖を行います。この時点で多くの方は「??」ですよね。勘のいい人は植物を思い浮かべるかもしれません。クラゲって、人間とは全く異なる一生を送るんです。クラゲの中でも代表的な「ミズクラゲ」という種類でクラゲのその一生を紹介すると、
①ミズクラゲにはオスとメスがいて、有性生殖を行います。産卵した卵は一時的にメスの体にとどまり、孵化後に動ける状態のプラヌラ(幼生)になります。
②プラヌラはメスの体を離れ、海の中を漂いながら居心地がいい場所を探します。
プラヌラがどこかへ定着すると、イソギンチャクのような形をしたポリプと呼ばれる姿に変わります。ポリプは元気に育つと分裂し、クローンをつくってどんどん殖えます(無性生殖)。
③ポリプが元気に成長すると、様々な条件がきっかけでクラゲになる準備としてお皿が重なったような形のストロビラという姿に変化します。
④ストロビラは1枚1枚が剥がれ、エフィラという小さなクラゲが誕生します。このことを遊離といいます(無性生殖)。
⑤エフィラは成長し、皆さんが見慣れている大きなクラゲになります。
ミズクラゲの一生
ミズクラゲのポリプ、ストロビラ、エフィラ
この複雑な一生をしていることもあり、クラゲの飼育はとても難しいです。プラヌラが着底しなかったり、ポリプが全然増えなかったり、条件を整えても遊離しなかったり、小さなクラゲが育たないことも。クラゲの飼育はトライ&エラーの繰り返しで、ラボでは毎日挑戦の日々です。一方で、最近では飼育が安定してきたとこともあり、展示の工夫や研究、調査なども進めています。そんな事例をいくつか紹介させていただきますね。
■展示の工夫
①U字型水槽
すみだ水族館には8槽のU字型をした水槽があり、小~中型のクラゲを展示しています。過去は年間を通じて10種ほどを安定的に展示していました。しかし、1種でも多くのクラゲを見てもらいたい。何度も来館いただいているお客さまをもっと楽しませたいという思いから、現在では約15種を年間で展示できるように頑張っています。これはとっても難しいことなんです。クラゲの寿命を考え、遊離のタイミングを調整し、小さなクラゲが展示できるサイズに育つペースを想定してスケジュールを考えます。クラゲの種によって全て条件が異なるため、緻密な計算と飼育技術の下、U字型水槽の展示を行っています。
U字型水槽
②ビッグシャーレ
クラゲの飼育には水流が重要です。実は、多くのクラゲは水流が無いと底に沈殿し体がスレてケガをしていきます。一方で、水流をつけようとすると水の循環の吸い込み口にクラゲが吸われたり、突出口にから出る水でクラゲが叩かれてケガをすることがあります。これを解消するためにクラゲの飼育水槽は水流が作りやすい縦長で丸みを帯びた形が多く採用されています。そのため、クラゲの水槽は横から眺めるタイプがほとんどで、上から見下ろす水槽はほとんどありません。一方で魚の水槽は上から見下ろす水槽は多くあり、特に江戸時代に文化が花開いた金魚は、上から見ることを意識して育てられた品種もいるほどです。いきものをさまざまな角度から見るということは楽しいですし、没入感が違います。そこで2020年に誕生したのが、「ビッグシャーレ」です。この水槽は「水面を広く」「水深を浅く」「水面の波立ちを少なく」する設計になっているのが特徴です。テスト水流の際には何度も繰り返し試験しました。無事にクラゲが浮遊した時の感動は今でも忘れません。
ビッグシャーレ
実はこの水槽、担当的に推したい眺めがあります。それは「横」からの眺めです。設計当初は、どうせ一般的な横からの眺めと同じでしょ?と思っていたのですが、その当時の私を一喝したい。なぜこの眺めを想像できなかったのか。7mの奥行に重なって見えるクラゲの景色を。移り行く照明に照らされて刻々と変わるクラゲの様子。ここから眺めていると日頃の疲れもすっかり忘れてしまいます。
ビッグシャーレ横からの眺め
③ドラム型水槽
クラゲは基本的に種が違うと同じ水槽に同居できません。それは、多くのクラゲがお互いを刺し合ったり、捕食したりしてストレスになるからです。そこで誕生した水槽がすみだ水族館のドラム型水槽です。パッと見て1つに見えるような3連の水槽を作ることで、3種のクラゲが同居しているように見えます。現在は近い種類のクラゲを3種展示していて、体の違いなども観察できるようにしています。
ドラム型水槽横からの眺め
この水槽、意外だったのが赤ちゃんのフォトスポットとして人気だということです。ベビーカーを水槽の下に差し込み、水槽からの照明で赤ちゃんが照らされ、絶妙なアングルで撮影できます。赤ちゃんもクラゲに癒されてくれるといいなと思います。
ドラム型水槽と赤ちゃん
■クラゲのゴハン(餌料)の工夫
魚のゴハンには多くの種類の配合餌料があります。配合餌料には栄養がバランスよく入っており、手軽に安定して使用できるメリットがあります。一方でクラゲのゴハンは配合餌料がほとんどありません。多くの水族館ではクラゲに動物プランクトン、魚などの肉ミンチ、クラゲを給餌しています。すみだ水族館でもそうでした。
転換を迎えたのは2018年のことです。チンアナゴ担当者からチンアナゴの繁殖挑戦で使用したシラスウナギ餌付け用の配合餌料「イトメイト」が余ったとの連絡が。クラゲは好き嫌いが多いのであまり期待はできないな、と思いつつ試しにクラゲで使用してみることに。すると予想に反して驚くぐらい食べ、しかも栄養がしっかりしているのか、クラゲがマッチョになりました。当館では現在でもこのイトメイトを愛用しており、そのことを伝えた他の水族館でも採用しているところがあるようです。
イトメイト
今回のクラゲのコラムはここまで。すみだ水族館でのクラゲ観察の参考になりましたら幸いです。