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2025.01.29
【現地視察レポート】アルゼンチンでのマゼランペンギンの暮らしを体験してきました
すみだ水族館には2025年1月現在で56羽のマゼランペンギンたちが暮らしています。当館生まれのペンギンも一緒に生活しており、2012年の開業よりこれまで合計27羽のペンギンが誕生してきました。2024年12月。マゼランペンギンたちへの理解をより深め、よりよい飼育と発信を行うために、彼らの繁殖地であるアルゼンチンを訪れました。本コラムでは実際に私たちが現地で撮影した写真とともに、自然界でのペンギンの繁殖について紹介します。(展示飼育チーム 柿崎 智広、高嶋 悠加里)
■野生のマゼランペンギンたちの繁殖シーズン
まず、基本的な情報として野生のマゼランペンギンたちは南米大陸の沿岸域に生息しており、1年うちの約半年は餌を求めて海上で生活し、初春から夏にかけて年に1度の繁殖期を迎え、それぞれ決まった繁殖地で過ごします。
マゼランペンギンのペア
最大の繁殖地はアルゼンチン。9月頃からそれぞれの繁殖地へ到着し巣作りと交尾を行い、2つの卵を産みます。雌雄で交互に子育てをおこない、40日ほどかけて卵を温めヒナが誕生すると、その後も交互に海へ狩りに出かけヒナたちに食事を与えます。ヒナは2-3ヵ月で親と変わらぬ大きさまで成長すると、綿羽に包まれた幼い姿からこれから海で過ごすための姿(亜成鳥)に羽が生え変わります。そして、翌年の1月頃より巣立ちがはじまり、親たちの年に一度の換羽が終わるとともに故郷の繁殖地を出発します。
マゼランペンギンの成長<ヒナ→亜成鳥→成鳥の姿>(モデル:すみだ水族館の「はなび」)
■自然下での繁殖のようす
2024年12月、過去にアルゼンチンで国際共同研究をされ、当館でも研究を共にしている麻布大学の山本准教授※1※2と2つの繁殖地を訪れました。
※1.マゼランペンギンのメスがオスより多くストランディングする謎が明らかに!
※2.マゼランペンギンについてもっと知りたい!~データロガーを用いた行動調査について~
プンタトンボ(Punta Tombo)
プンタトンボは自然保護区の小路を散策しながら野生動物を観察できる自然観光地です。現地は繁殖期の真っただ中。ソーシャルディスタンスを守りながら皆さんが間近で観察をしていました。
プンタトンボのゲートにて
ソーシャルディスタンスの注意書き
観光者とペンギン
観察する飼育スタッフ
この時期では遅めの巣作りをするペンギンや、ヒナを育てるペンギンもぽつぽつと見られ、海と巣を往来する彼らの主要な幹線道路「ペンギン・ハイウェイ」も目にすることができます。これから狩りに向かう勇み足なペンギン、たっぷりとお腹に食べ物を蓄え子が待つ巣へヨタヨタと戻る途中の親ペンギン、たくさんのペンギンたちが行き来をしていました。
藁を運ぶ巣づくりペンギン
ペンギン・ハイウェイ
海岸で一休みするペンギンたち
バルデス半島:サン・ロレンソ(San Lorenzo)
1999 年にユネスコ世界自然遺産に指定されたバルデス半島(Península Valdés)は約 3,600 km² に及ぶ広大な自然保護区です。主にガイド付きツアーでアクセスが可能なありのままの自然が残るこの地には、多様な野生生物が暮らし、息を呑むような風景が広がっています。私たちはFlavio Quintana博士とその研究チームに同行し、この半島にある世界最大のマゼランペンギンの繁殖地であるサン・ロレンソへ訪れ、彼らの繁殖活動を観察しました。
Flavio博士の研究チームとともに
広大な大地とペンギンたち
アメリカレアとペンギン
グアナコとペンギン
ヒツジとペンギン(ヒツジは放牧されているもの)
Flavio博士のチームは毎年、数百ものペンギンたちの巣と繁殖するペアの行動を観測しており、繁殖時のパートナーは誰なのか、利用する営巣地はどこか、その繁殖成功率はどのくらいか、そして親ペンギンたちは海上でどのように潜水や採餌などの活動を行っているかの研究をされています。長年の記録からは、ほとんどのペアは毎年同じパートナーと同じ場所に営巣していることが分かり、驚くべきことにそのうちの一組のペアは、なんと 19 年連続で同じ場所に戻り子育てを続けているそうです。一見すると人の目では見わけのつかないペアたちですが、それぞれがこの広い自然の中で深い絆で永続的に繋がっている。夫婦の絆が強いと言われているペンギンたちですが、このことを改めて実感した感動的な体験となりました。
子育てペンギン
調査のようす
■自然の厳しさ
野生のペンギンたちの暮らしぶりに感動する一方で、彼らの苦労も垣間見えます。
繁殖中は日中の強い日差しによる熱中症を起こす危険性や、降雨量が少ない地域ながら時折の風雨によって幼いヒナの身体を冷やし衰弱をさせることもあります。加えて、肉食動物からわが子を守るために常に周囲へ目を光らせる必要もあり、危険にさらされにくい巣は重要な子育て条件の一つです。
そして、親は日々交代をしながら狩りに出かけますが、巣から海までは片道数百メートルもあり、歩幅の小さなペンギン歩きでその距離を歩くことは容易ではありません。複雑な地形の中で多くは最短距離を選択して効率良く歩くことが分かっているようですが、時には迷ってしまう者もおり、狩り自体も海況によっては上手くいくとは限らず、我が家に辿り着く途中で力尽きてしまうことも少なくは無いようです。
こうして、さまざまな苦難を乗り越えた親たちの愛情をたっぷり受けて育った子どもたちは、幼いうちに自身の力で、自然と対峙していきます。
共同住宅のような巣
一戸建てのような巣
まさに「巣穴」な巣
家っぽくない巣
同じ目線に立ってみた。似たような風景の中で多くは迷わないというのだから驚かされる。
闘争のあと
暑そうにしているペンギン
力尽きてしまった者も
たくましく育った子どもの姿(亜成鳥)が混じっているのがわかりますか!?
目の前に広がる光景は、厳しい自然の中でマゼランペンギンたちが強い絆でもって、力強く生きている証であること。実体験から得られた様々な経験を心に刻み、水族館で暮らすペンギンたちにはより健康的な生活を、安心に、安全に子育てをして欲しい。そのような想いを持って現地を後にしました。
次回のペンギンコラムでは、すみだ水族館のペンギンの繁殖活動について紹介します。