コラム

2025.02.28

今年もすみだ水族館のペンギンたちの繁殖期が始まりました

  • ペンギン

すみだ水族館では、2012年の開業よりこれまで合計27羽のマゼランペンギンが誕生してきました。当館のペンギンの繁殖シーズンは12月~5月頃。12月頃から身体づくりが始まり、3月頃に産卵、5月頃にはヒナ誕生というスケジュールです。今年もむかえる繁殖期。当館のペンギンたちはどのようにして生まれるのか、今回のコラムではその準備についてお伝えします。(展示飼育チーム 高嶋 悠加里)

■季節の変化を感じてもらう(12月頃)
前回のコラムで自然界(アルゼンチン)のマゼランペンギンたちの繁殖期は9月頃からとお伝えしたので、水族館はどうして12月からなのか疑問に思われた方もいるかもしれません。なぜ自然界と異なるのかというと、季節に関連して気温や水温、日照条件などが変化するためです。‌
マゼランペンギンは「秋から冬」の環境条件を感じ取ることで繁殖の準備を始めます。日本ではこの環境が重なるのが、12月頃となるので、すみだ水族館ではこの時期に繁殖の準備を始めます。また、完全屋内の環境で生活しているペンギンたちに季節を感じてもらうため、水温、照明時間の管理を徹底して、環境づくりをしています。水温は、12月・1月が1年間で一番冷たい温度に、2月からは徐々に温かい温度に調整。日照時間でも季節を体感してもらうために照明は、暗い時間が「長い時期」と「短い時期」に二分割に調整しています。この調整をすることで季節を感じてもらい、繁殖期だけでなく、全身の羽が生え変わる換羽期も全羽で同じ時期にむかえることができています。‌

※前回のコラム:【現地視察レポート】アルゼンチンでのマゼランペンギンの暮らしを体験してきました




ペンギンプールの昼と夜

■求愛のシーズン(12月頃)
12月頃から館内は、ペンギンの鳴き声で賑やかになります。特にオスの行動に変化がみられ、よく鳴き、よく食べ、体が大きくなります。陸上でオスが鳴いていると、相手のメスは泳いでいても急いでオスの近くに近づき、2羽で大きな声で「再会の鳴き交わし」が館内に響きわたります。1ペアが鳴き交わしていると、他のペアも誘発され大合唱がはじまることも増えてきます。この行動が見られると、季節変化を感じて、ペンギンたちの繁殖期が無事にやってきた証です。‌


妻フジの隣で鳴くアケビ

ちなみに自然界では、繁殖期になるとオスが先に巣へ戻り、メスが帰ってくるまで待ちます。繁殖期以外の半年間は別々の海流で過ごすので、繁殖期をむかえオスとメスが再会するのはなんと約半年ぶり。待ち合わせの日にちも時間も決めていないはずですが、半年前に過ごした巣で再会できるなんて、神秘を感じます。‌

■ペアワッチシートを活用した繁殖期の行動調査(1月~4月頃)
繁殖期を迎えた12月以降は、ペアたちの一緒にいる時間が増えていきます。2025年2月現在、すみだ水族館には18組のペアがいますが、行動パターンはペアごとに違いがあり、「摂餌以外はずっと一緒にいるタイプ」や「夜間に一緒にいる時間が多いタイプ」など様々です。ペアの特性を把握し、繁殖意欲向上のケアをしたり、健康管理に役立てるため、“ペアワッチシート”と呼んでいるチェック表にて毎年調査しています。‌


ペアワッチシート

「一緒に行動している」「羽づくろいをしている」など、9つの項目を日中と夜間それぞれ調査します。調査結果は、ケア方針を決める際の情報源の一つになり、ケアがいい方に向いているのかなど、その年の傾向を把握するためとしても活用しています。ペアによっては産卵時期が近づいてくると全項目が埋まることもあります。‌

また、若い個体はこれから相手を探していくため、個体間の関係性が変わっていきます。「異性繁殖に興味を示すのか」「どの相手に決めるのか」などの経緯は、飼育スタッフにとって興味深いことの一つなので、繁殖の適齢期をむかえていない未成熟個体の調査も同時に行っています。この個体間の距離感などを把握し、場合によってはペア形成の手助けも行うこともあります。 ‌


よく一緒にいるぼんぼりとだいふく(ペアではない)

■巣の提供(2月頃)
ペアが絆を深め、メスは産卵に向けてよく食べ、身体づくりが出来た2月頃。ペンギンたちに安心して産卵してもらえるように、バックヤードを繁殖仕様に模様替えします。‌
ペンギンたちは、安全で、安心できる場所でなければ交尾・産卵をしてくれません。そのため、2羽だけの空間を確保し、各ペアに合わせた巣を飼育スタッフの手作りで作成しています。より良い環境の提供を目指し改良を重ね、人工芝や、ビニールパイプなどの材料を組み合わせています。‌


繁殖仕様のバックヤード

■巣の内覧会を実施
好きな巣の場所を選んでもらうことで、ペアの絆が深まるのでは?と考え、「内覧会(通称)」を実施しています。カップルや夫婦になって長いペアはある程度、好きな場所が決まりつつありますが、それでも2羽で全部の場所を覗きに行ったり、オスとメスで別々の場所が気に入ってしまい沈黙の戦いがあったり、2つの場所が気に入ってしまいペア同士でケンカしたりと、場所が決まるまでにドラマがあります。私たち飼育スタッフにとっても「内覧会」は、毎年楽しみにしている時間の一つです。‌


巣を選ぶペンギンたち

■巣材の提供
オスは営巣行動を行うことで、より巣への執着が高まり、メスは産卵場所に適しているのか判断します。そのため、内覧会がある程度落ち着き、気に入った場所が決まったころに巣材となる藁を渡します。‌
オスたちは我先にと藁を運んでいきます。運び方にも個体差があり、大量に嘴で挟み持っていくか落としながら歩くので、最終的には短い藁しか巣に運べない個体や、1本ずつしか運ばない個体、隣のペアの藁を盗みたい個体など様々です。‌


藁を渡す飼育スタッフ

巣で待っているメスは、藁をオスが運んでくると 小刻みに頭を震わせ喜びます。こうして、安心できる場所が決まり、巣の中で2羽が寄り添って寝ている姿をみると、安心と嬉しさでほっとします。‌


くつろぐスイカとさくら

自然界の繁殖地でも、私たちが渡しているような、藁に近い植物を運んでいました。同じように、大量に運ぶタイミングや、3本程しかもっていないタイミングなどほほえましい行動がみられました。‌


藁を運ぶ自然界のマゼランペンギン

■地図いらず!?
一度決まった場所は、しっかりと覚えており、プールからバックヤードに戻って来たペンギンたちは、一目散に自分の部屋まで帰っていきます。‌
自然界のペンギンたちの帰巣本能にも驚かされました。広大な敷地・目印さえも見つけられないような場所で、迷うことなく一直線に自分の巣へと向かっていきます。現地の研究者によると、何を目印に巣を認識しているのか、まだ研究中のようです。これがわかったら、とても面白いですね。‌

■ペアの絆を高めるために
「ペアワッチシート」の情報をもとに、ペアにとって過ごしやすく、マンネリ化しないための作戦をたてます。「あえて離れて生活する時間をつくる」、「夜のみ一緒に過ごす」、「泳ぐ時も食べるときも一緒に過ごす」など各ペアに合わせてケアをすることで、再会した時の鳴き交わしや交尾行動に繋がります。ペアによって再会の喜び方は様々で、羽を膨らませたり、からだをくねらせたり、鳴き交わしたり、羽をパタパタしたり、交尾を始めたりと感情を体で表現します。愛情表現をしている様子を見ると、嬉しくなります。‌


ぴったりとくっつくアンズとマカロン

一番気にかけているのは「アジサイ」と「チョコ」です。なかなか交尾意欲のタイミングが合わず、有精卵を産むことができていませんでした。ペアワッチシートをつけていると、どうやら、ずっと一緒に過ごしている方が交尾の回数が多くなる傾向があることがわかりました。そこで2羽が一緒の行動をとれるよう、定期検査時でも一緒にいるよう気にかけたことで、今では安定して有精卵を産めるようになりました。そして2023年には2羽の初めてのヒナ「あめ」が誕生しました。‌


アジサイとチョコ

■新たないのちの誕生を願って
ペンギンたちが絆を深め、卵が産み落とされる時期は3月から4月くらいを予定しています。新たないのちの誕生を願い、入念な準備を進めています。先日、アルゼンチンで自然界のペンギンたちの絆や子育ての苦労を肌で感じてきたからこそ、一層の愛情をかけて、ペンギンたちの繁殖に臨みたいと思います。

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